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2025年11月14日

医療研究に革命をもたらす三次元培養|スフェロイド培養やコラーゲン培養などの有用性

はじめに

近年、身体を構成する多種多様な細胞を二次元的にシャーレやフラスコで培養しても、細胞機能が現れにくいことが明らかとなった。一方、細胞を立体的に培養することで本来の細胞機能を示すようになることも分かってきた。こうした背景から、細胞を立体的に培養する方法として、三次元培養技術が注目されている。

目的に合った三次元培養方法で細胞を培養することにより、生体内での細胞の働きを解明することが可能となる。そのため、三次元培養技術の中でも特に、スフェロイドやオルガノイド培養、コラーゲンを支持体とした培養などが、がん研究や組織工学、再生医療の分野で新技術としてめざましい進歩を遂げている。この記事では、医療研究に革命をもたらす三次元培養を使った最新研究や活用事例について紹介する。

目次

はじめに
1.三次元培養の基礎知識
 1-1.細胞培養の歴史と三次元培養の登場
 1-2.三次元培養と二次元培養との違い
2.三次元培養の種類とそれぞれの特徴
 2-1.スキャフォールドフリー型培養
 2-2.スキャフォールド型培養
3.スフェロイドによる三次元培養と活用事例
4.オルガノイド培養と活用事例
5.コラーゲンを用いる三次元培養と活用事例
 5-1.コラーゲンが三次元培養に選ばれる理由
 5-2.高研のアテロコラーゲンの特徴と活用例
まとめ|創意工夫で三次元培養を創薬に活かす

1.三次元培養の基礎知識

三次元培養は、生体環境の再現が可能な革新的な細胞培養技術である。ここでは、細胞培養の歴史と二次元培養との違い、三次元培養の種類や利用例について解説する。

1-1.細胞培養の歴史と三次元培養の登場

動物細胞の培養は、1860年代の器官培養に始まり、組織培養を経て、1910年代に培養方法が確立したと言われている。特に革新的であったのは、トリプシンを用いた細胞分離技術であり、現在も細胞培養の現場で用いられている。また、細胞を増殖させるために必要な培養液や成長因子などの研究により、ES細胞や正常細胞なども容易に培養できるようになった。

これまで、細胞培養は主に二次元培養(平面培養)が行われてきた。例えば、 血球系細胞由来の浮遊細胞培養や組織細胞由来の付着細胞培養である。しかし、二次元培養では、細胞が生体内で示す特性があまり再現できない点が課題であった。特に顕著だったのが、培養された株化がん細胞と生体内のがん細胞では、抗がん剤への反応性が大きく異なるという点である。これは抗がん剤の研究において特に大きな課題であり、創薬研究の足かせであった。

この課題の克服のため1990年代から注目され始め、幅広く研究に用いられているのが三次元培養である。三次元培養とは、その名が示す通り、細胞を立体的に培養する方法だ。生体内の組織に似た多層構造で立体的に培養された細胞は、細胞が元来有する機能を保持するため、医療研究に有用だと考えられる。

1-2.三次元培養と二次元培養との違い

三次元培養では二次元培養とは異なり、生体に近い状態で立体的に構築された細胞群を培養することができるのが特徴である。組織や器官の細胞は立体的な多層状態で機能するため、組織や器官の外側と内側では、栄養状態や酸素分圧に局所的な差が存在する。そのため、細胞の存在する位置によって、細胞の機能が異なるのである。つまり、二次元培養で単一化された細胞となった状態では、代謝や反応が生体内と異なるのは当然と言える。

三次元培養により生体に近い状態で培養された細胞群を用いることで、医薬品開発やオーダーメイド医療の研究に大きく貢献できる。また、化粧品の有効性試験には動物実験が行われていたが、この代替法として三次元皮膚モデルが作製されるなど三次元培養は世界中で注目を浴びる技術となっている。

2.三次元培養の種類とそれぞれの特徴

三次元培養は、支持体を使わない「浮遊型(スキャフォールドフリー型)培養」と支持体を使う「付着型(スキャフォールド型)培養」の2つに大きく分類される。ここでは、これらの違いや特徴について解説する。実際には、それぞれの良いところを組み合わせたハイブリッド型も開発されており、三次元培養は使用する目的に応じて臨機応変に改良することが重要である。

2-1.スキャフォールドフリー型培養

スキャフォールドフリー型培養は、スキャフォールド(Scaffold)と呼ばれる三次元的な足場(支持体)を使用せず、細胞自身の接着性を利用して三次元構造を形成させる方法である。細胞をフラスコなどに接着させず、球状の細胞塊として浮遊させるのが特徴である。

代表的なものはスフェロイド培養であるが、一部のオルガノイド培養も含まれる。スキャフォールドフリー型の技術は特にがん研究や創薬スクリーニング、薬物代謝、毒性試験、細胞治療などの分野で利用される。

2-2.スキャフォールド型培養

細胞に三次元的な支持体を提供することで、立体的に配置された細胞群を形成させる方法をスキャフォールド型培養と呼ぶ。立体的に作られた足場の周りに細胞が増殖して三次元構造を取るようなイメージである。代表的なものとして、基底膜抽出物を用いるオルガノイド培養やコラーゲンを用いる三次元培養などが挙げられる。

スキャフォールドは、ECM(extracellular matrix)と呼ばれる細胞外マトリックスであるコラーゲンやフィブロネクチン、高分子材料(ポリスチレン、ポリウレタン、ポリカプロラクトン)、チタンなどから作られる。なお、オルガノイド培養ではスキャフォールドとして、ラミニンやコラーゲンなどのECMや増殖因子類を豊富に含む基底膜抽出物を使うことが多い。スポンジ状や繊維状に形成された支持体内で、細胞が立体的に増殖し、本来の形態に近い状態で培養できる。
このうち、コラーゲンやフィブロネクチンなどのECMは生体内に存在する物質であるため細胞との親和性が高く、再生医療の研究にも使いやすいという特徴がある。

スキャフォールド型の三次元培養は、皮膚モデル作製などの組織工学や再生医療の研究、薬剤の有用性を調べる試験などに利用される。また、オルガノイドの三次元培養は、がん研究や創薬スクリーニング、薬物代謝、毒性試験、細胞治療などの分野での利用が期待される。

なお、スキャフォールド型の三次元培養に類似した細胞を直接ECMでコーティングして三次元培養するという細胞積層化技術も提唱されており、ECMと三次元培養との相性の良さが分かる。

3.スフェロイドによる三次元培養と活用事例

支持体を使わずに細胞を浮遊状態で三次元培養する場合、細胞がフラスコへ付着しないような処理を行うことが一般的である。フラスコなどに細胞が接着せず、細胞自身の接着性により球状のスフェロイドを形成する。組織や器官、固形がん由来細胞などは、二次元ではなく三次元の細胞塊を形成することでそれぞれの持つ細胞機能を示すため、主にがん研究や薬物代謝、創薬スクリーニングに活用できる。

初代培養細胞や正常細胞は生体内の細胞機能をよく示すが、細胞機能を維持したままでの長期間培養は困難であり、薬物動態や毒性試験には使いにくい。そこで、ある程度の長期間培養が可能で細胞機能も保持できるスフェロイド培養を活用する方法が開発されている。

例えば、ヒト初代肝細胞をスフェロイド培養することで20日程度の機能性を維持できるため、薬剤誘発性肝障害を確認する手段となり得る。そのため、スクリーニングの初期段階に活用すれば、新薬開発コスト低減につながり有益である。

参考:Biomedicines. 2020 Sep 23;8(10):374
Utility of Three-Dimensional Cultures of Primary Human Hepatocytes (Spheroids) as Pharmacokinetic Models

なお、ヒト肝細胞の 三次元培養スフェロイドモデルについては多くの報告がある。
また、卵巣がん細胞をスフェロイド培養して抗がん剤の効果を検討した事例など、スフェロイド培養はがん研究に非常に有益であり、多岐にわたる研究がなされている。
ただし、接着性の低い細胞、特に患者由来がん細胞では、均一なスフェロイドを形成することが困難な場合があるため、万能ではない。

4.オルガノイド培養と活用事例

オルガノイド培養は、臓器や組織を模倣した立体構造物(オルガノイド)を作製するために行われ、基底膜抽出物というECMや増殖因子を豊富に含むゲルを用いた培養方法が一般的である。組織由来の幹細胞やiPS細胞を用いるため、スフェロイド培養よりも実際のがん組織や正常組織の構造に近い複数種の細胞からなる、機能性を発揮するオルガノイドを形成する。
患者由来のがん幹細胞をオルガノイド培養することで、オーダーメイドでの効果の高い抗がん剤の判定が期待でき、がん研究には優れた培養方法と言える。しかし、基底膜抽出物は腫瘍であるEHS マウス肉腫細胞から単離した細胞外基質タンパク質に富む基底膜成分であるため、再現性が低く、コストもかかるという課題がある。

この課題をクリアする画期的な方法として、基底膜抽出物を用いないがん患者由来のがんオルガノイド(F-PDO)作製方法と抗がん剤の評価システムに関する研究が、福島県立医科大学より発表されている。

参考:Oncol Rep. 2018 Aug;40(2):635-646.
Evaluation of anticancer agents using patient-derived tumor organoids characteristically similar to source tissues

 

5.コラーゲンを用いる三次元培養と活用事例

生体との親和性が高いECMを使った三次元培養には、コラーゲンを支持体とすることが多く、各社からコラーゲンを材料にしたスキャフォールド製品が販売されている。

5-1.コラーゲンが三次元培養に選ばれる理由

コラーゲンはECMのひとつであり、細胞毒性が少なく、細胞との親和性が高いことが特徴である。コラーゲン濃度を変えることで酸素濃度の調整等培養条件を調整でき、生理活性物質の徐放も可能になるなど、目的に応じて自由な設計ができて便利であることも選ばれる理由である。

また、コラーゲンは比較的安価に製造できるため、研究コストを抑えるという意味でも有益である。前述のようにオルガノイド培養は基底膜抽出物を用いて行われるのが一般的であるが、コラーゲンを用いて基底膜抽出物と同等以上の培養が可能との報告もある。

基底膜抽出物は高価であるうえ、ロット間のばらつきや安全性の課題もあるため、コラーゲンで代用できるに越したことはない。実際、高研のアテロコラーゲンゲルでオルガノイド培養が可能なことも学会発表されている。

5-2.高研のアテロコラーゲンの特徴と活用例

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なお、高研のアテロコラーゲンであれば、抗原性を示すN末端とC末端にあるテロペプチド領域がプロテアーゼ処理で除去されているため、低抗原性であり、臨床応用の実績もある。また、高研のアテロコラーゲン製品には細胞由来の生理活性物質や核酸、MMPなどが含まれないため、実験結果の評価がクリアとなるのが特徴である。
生分解性のあるスポンジ構造や膜状のアテロコラーゲンを支持体として三次元培養した細胞は、そのまま移植実験にも用いることが可能である。また、スフェロイド培養やオルガノイド培養した細胞群は、高濃度アテロコラーゲン溶液を支持体として移植することもできるため、研究の自由度が増すのも魅力と言える。

例えば、スポンジ構造のアテロコラーゲンを用いて三次元培養したES細胞やiPS細胞をヌードマウスに移植して細胞分化を調べた研究もある。

参考: Sci Adv. 2017 May 12;3(5):e1602875.
Three-dimensional system enabling the maintenance and directed differentiation of pluripotent stem cells under defined conditions.

また、スフェロイド培養で生じる内部の低酸素状態や細胞壊死は、アテロコラーゲンを用いることで改善できる。さらに、スフェロイドなどの細胞塊の位置を固定できるため、がん細胞の浸潤や細胞分化、遺伝子発現などを調べることも可能となる。

例えば、高研のアテロコラーゲンを用いて、乳がん細胞由来のスフェロイドを包埋することで、がん細胞の浸潤を調べた研究もある。

参考:In Vitro Model. 2024 Feb 13;3(1):19-32
Biological characterization of breast cancer spheroid formed by fast fabrication method

まとめ|創意工夫で三次元培養を創薬に活かす

スキャフォールドの有無に関わらず、試験や用途に合った新しい三次元培養方法の開発が世界中で進んでいる。手間やコストを省き、再現性の高い培養方法を見いだせれば、創薬研究に大きく寄与できるだろう。

なお、新技術といえば、三次元培養を高度に発展させたバイオ3Dプリンターで組織を作り出す研究も行われているが、課題が多く更なる研究が必要である。

今後も、創薬や再生医療への活用が期待される三次元培養が注目されることは間違いない。三次元培養の再現性やコスト面を鑑みると、品質が安定しており比較的安価で移植試験や再生医療の検討にも使える高研のアテロコラーゲンは非常に魅力的である。

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