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2026年07月24日

再構築ヒト皮膚モデル(3D皮膚モデル)を自作しよう|真皮・皮膚全層・表皮モデル用の基材も紹介

目次

はじめに
1. 再構築ヒト皮膚モデル(3D皮膚モデル)の基礎知識
 1-1. 3D皮膚モデルを用いた研究開発とは?
 1-2. 真皮モデル・皮膚全層モデル・表皮モデルの違い
 1-3. 3D皮膚モデルに使用されるコラーゲンの種類
2. ヒト皮膚研究用の市販3D皮膚モデルと自作3D皮膚モデルの比較
 2-1. 市販3D皮膚モデルとその特性
 2-2. 自作皮膚モデルとその特性
 2-3. 自作3D皮膚モデルの質をどうやって担保するのか
3. ヒト皮膚全層モデルの自作法とその用途
 3-1. ヒト皮膚全層モデルの作り方
 3-2. 自作ヒト皮膚全層モデルの用途
4. ヒト表皮モデルの自作法とその用途
 4-1. ヒト表皮モデルの作り方
 4-2. 自作ヒト表皮モデルの用途
まとめ

はじめに

 再構築ヒト皮膚モデル(3D皮膚モデル)は、ヒト皮膚の構造や機能をin vitroで再現するための培養系である。一方、通常の平面培養では、角化細胞の分化、皮膚バリアの形成、線維芽細胞との相互作用、皮膚刺激への応答などを生体に近い形で捉えにくい場合がある。

 3D皮膚モデルは、こうした限界を補う有力な選択肢になるため、化粧品や医薬品の研究開発、医療機器の安全性評価などでも使われており、用途は広がっている。

 こうした3D皮膚モデルは、市販品を使う方法だけでなく、研究室で自作することも可能である。適切な角化細胞、線維芽細胞、培地、コラーゲン基材を選べば、ヒト皮膚や市販モデルをベンチマークにしながら、基礎研究や各種応答評価に使える系を組み立てることができる。

 ここでは、3D皮膚モデルの基本から、市販3D皮膚モデルと自作3D皮膚モデルの違い、さらに真皮モデル・皮膚全層モデル・表皮モデルに使う基材まで、研究者向けに整理する。

1. 再構築ヒト皮膚モデル(3D皮膚モデル)の基礎知識

 3D皮膚モデルは、平面培養では見えにくいヒト皮膚の構造や反応を、より生体に近い形で捉えるための培養系である。
 この節では、3D皮膚モデルがどのような研究に使われているのかに加え、真皮モデル・皮膚全層モデル・表皮モデルの違い、さらに3D皮膚モデルに欠かせないコラーゲンの種類を解説する。

1-1. 3D皮膚モデルを用いた研究開発とは?

 3D皮膚モデルが使われる場面としてまず挙げられるのが、皮膚の基礎研究である。表皮分化、皮膚バリア、表皮-真皮相互作用、炎症応答などを、平面培養よりもヒト皮膚に近い立体的な構造として再現できることが大きな利点である。

 化粧品分野では、原料や処方による刺激性などの安全性評価に加えて、保湿、バリア機能、抗炎症作用などの有用性評価にも応用できる。

 医薬品分野では、経皮吸収や炎症性皮膚疾患を想定した応答評価などに利用される。医療機器分野では、皮膚に接触する材料の刺激性評価などにも関係する。

1-2. 真皮モデル・皮膚全層モデル・表皮モデルの違い

 3D皮膚モデルは、大きく分けて真皮モデル、皮膚全層モデル、表皮モデルの3種類がある。なかでも、真皮モデルや表皮モデルは一種類の細胞で構成されているので、比較的導入しやすいモデルである。一方、皮膚全層モデルは二種類の細胞で構成されているために、表皮-真皮相互作用まで評価できる発展性の高いモデルである。

 真皮モデルは線維芽細胞とコラーゲンを用いるモデルで、細胞外マトリックス(ECM)の形成、コラーゲンゲル収縮アッセイ、間質応答を見たいときに使いやすい系である。

 皮膚全層モデルは、角化細胞、線維芽細胞、コラーゲンを組み合わせたモデルで、表皮と真皮の両方を含むため、表皮-真皮相互作用まで見られるのが特徴である。

 表皮モデルは主に角化細胞で構築するモデルで、表皮分化、浸透性評価、バリア機能評価に向いている。

1-3. 3D皮膚モデルに使用されるコラーゲンの種類

 真皮モデルや皮膚全層モデルの足場材料として重要なのがType Iコラーゲンである。皮膚の真皮はType Iコラーゲンを多く含むECMで構成されているため、Type Iコラーゲンのゲルは線維芽細胞を三次元的に保持し、より皮膚に近い環境を作るための基材として利用される。

 一般的な真皮モデルや皮膚全層モデルには、酸可溶性のType Iコラーゲンが使用される(以降、ネイティブコラーゲンと表記)。ネイティブコラーゲンは、生体内のコラーゲンと同じく3本のポリペプチド鎖が3重らせん構造を取っており、その両末端はテロペプチドと呼ばれるらせん構造ではない部位からなる。

 テロペプチドは抗原部位と言われており、抗原性を低下させるために酵素で除去したものがアテロコラーゲンと呼ばれる。アテロコラーゲンはネイティブコラーゲンと同様の細胞との相互作用を維持しており、また生体親和性の高い物質として40年以上の臨床応用実績のある物質である。

 真皮モデルや皮膚全層モデルを作製すると、線維芽細胞によりコラーゲンゲルの収縮が起こることが知られているが、ネイティブコラーゲンと比べてアテロコラーゲンの方は収縮が強く起こる。     しかし、高研の研究により、コラーゲンゲルの収縮を抑制する方法が考案され、アテロコラーゲンも3D皮膚モデルの作製に使用可能なことが学会発表されている。

 基材は単なる消耗品ではなく、3D培養の再現性を左右する要素である。目的に合ったコラーゲン基材を選ぶことが、安定した3D皮膚モデルづくりにつながる。

2. ヒト皮膚研究用の市販3D皮膚モデルと自作3D皮膚モデルの比較

 3D皮膚モデルを導入する際には、市販モデルを購入する方法と、自作モデルを立ち上げる方法がある。
 この節では、市販モデルと自作モデルのそれぞれの特徴を比較しながら、研究目的に応じた選び方と、自作モデルの質についての考え方を解説する。

2-1. 市販3D皮膚モデルとその特性

 市販3D皮膚モデルの最大の利点は、すぐ始めやすいことである。培養条件を一から最適化しなくても、一定の品質で揃えられたモデルを評価に使える。まずは既製品でベンチマークを取りたいときや、OECDテストガイドラインに掲載されている安全性評価を実施したいときに使用できる。

 一方で、市販3D皮膚モデルは高価になりやすく、モデルの種類や仕様によっては10万円台半ばから数十万円以上になる場合がある。とくに皮膚全層モデルや特殊仕様のモデルでは費用が高くなりやすく、発注スケジュールの制限や輸入品では納期がかかることもある。

 また、24ウェル分などプレート単位で提供されるため、必要数以上をまとめて使う前提になりやすく、少数だけ試したい場合には運用しにくい面もある。

 その他にも病態を再現したモデルも一般的には市販されておらず、完成品である分条件を大きく変えにくく、手軽さと自由度はトレードオフになりやすいと言える。

2-2. 自作皮膚モデルとその特性

 自作3D皮膚モデルの魅力は、研究目的に応じて条件を柔軟に組めることである。細胞の種類、播種条件、培養日数、刺激条件を自分たちで調整できるため、基礎研究ではとくに自由度が高くなる。

 材料や細胞を揃えて作製する形で進めれば、市販完成品を継続的に購入するより費用を抑えやすく、基材や培養条件によっては時間短縮につながることもある。

 安全性評価についても、OECDテストガイドラインに収載された試験とは別に、社内データ取得などの目的では実施可能である。

 また、未熟モデル、長期培養系、炎症誘導を加えた系など、既製品では作りにくい条件にも対応しやすくなる。実際、企業研究でも独自の3D皮膚モデルや改変モデルの開発が進んでいる。例えば、皮膚の張力を反映した人工皮膚モデル、免疫細胞を組み込んだ3D皮膚全層モデル、刺激に敏感な肌を再現した表皮モデルなどが挙げられる。

 ただし、自作3D皮膚モデルでは再現性が重要である。そのためには、次項で示すような評価方法で基準を定め、安定して自作皮膚モデルが作れることの確認が大切になる。

2-3. 自作3D皮膚モデルの質をどうやって担保するのか

 自作した3D皮膚モデルの質を担保するには、組織構造の再現性に加え、分化状態やバリア機能などの機能面を目的に応じて評価することが重要である。

 どのモデルを作製するのかによって、評価内容には幅があるが、例えばヘマトキシリン・エオジン(HE)染色によって、表皮の4層構造(角質層や顆粒層、有棘層、基底層)や真皮層の形成を確認できる。

 また、免疫染色では CK14、CK10、IVL、FLGなどの表皮マーカーで、角層形成やバリア機能の成熟度を確認でき、BP180や CD151、Laminin332などの基底膜マーカーで、表皮と真皮の接着に関与するヘミデスモソームの形成を確認することもできる。

 その他にも、経上皮電気抵抗(TEER)値や水分蒸散量(TEWL)の測定、浸透性評価など、目的に応じて機能面も評価することが可能である。

 大切なのは、評価項目を増やすことではなく、何を明らかにしたいかに応じて必要な項目を選ぶことである。

3. ヒト皮膚全層モデルの自作法とその用途

 皮膚全層モデルは、表皮と真皮の両方を含むため、表皮-真皮相互作用まで見られる点が大きな特徴である。
 この節では、皮膚全層モデルの基本的な作り方を概観するとともに、自作したモデルがどのような研究や応用に使えるのかを解説する。

3-1. ヒト皮膚全層モデルの作り方

 一般的な流れとして、皮膚全層モデルは、まず線維芽細胞とコラーゲンを混合し、セルカルチャーインサート上で真皮相当層の土台を作るところから始まる。
 なお、この状態のみでも、コラーゲンゲル収縮アッセイなどに用いられる真皮モデルとして扱うこともできる。

 その後、角化細胞を真皮層上に播種し、分化用培地で数日間培養する。さらに、角層形成用培地に切り替えて気液界面(ALI)培養へ移行することで、表皮分化と角層形成を促し、皮膚全層モデルとして成熟させていく。全体としては3週間前後の期間を要する。

 2種類の細胞を用いて2層の構造を作製するため、それぞれの細胞の播種密度や培地条件、培養期間に加え、ALI培養へ移るタイミングなどを複合的に検討する必要がある。

 なお、真皮層の作製時には、市販されている酸性のコラーゲン溶液を中和してから使用することが一般的であるが、コラーゲン溶液は粘性が高いため毎回均一な溶液を調製することが課題になることもある。

 高研では中性に調整されているready-to-useのコラーゲン溶液「3D Readyアテロコラーゲン」も用意しているため、誰でも簡単に安定した3D培養を実現できるようになる。

3-2. 自作ヒト皮膚全層モデルの用途

 自作した皮膚全層モデルは、皮膚の基礎研究、化粧品開発、薬剤応答の検討などに応用できる。表皮層と真皮層を含むため、表皮-真皮相互作用まで見たい研究に向いている。表皮と真皮の接着に関与する因子まで評価をすることができるのも、皮膚全層モデルの強みである。

 例えば、先述したように、炎症性サイトカイン刺激後の応答や、皮膚バリア機能に関わる指標の変化を評価する用途が考えられる。また、表皮と真皮の相互作用や、細胞外マトリックスの変化を指標とした検討、老化した皮膚を意識したモデル設計にも応用できる。

 その他、炎症性サイトカインなどの刺激を組み合わせることで、アトピー性皮膚炎様または乾癬様のモデルとして発展させることも可能である。

 ただし、皮膚を構成する細胞のうち、2種類だけで構成されているため、疾患そのものを完全に再現するモデルではなく、バリア機能低下や分化異常、サイトカイン応答など、評価したい指標を明確に設計することが重要である。

4. ヒト表皮モデルの自作法とその用途

 表皮モデルは1種類の細胞のみで構成されるため、3D皮膚モデルの入り口として比較的取り組みやすい系である。この節では、表皮モデルの基本的な作り方と、自作モデルならではの利点、さらに基礎研究や評価系への応用の可能性について解説する。

4-1. ヒト表皮モデルの作り方

 表皮モデルは、比較的シンプルな構成で立ち上げやすいのが特徴である。一般には、セルカルチャーインサートの上に表皮角化細胞の懸濁液を播種する。

 次に、ウェル内とインサート内に分化用培地を加えて数日間の液内培養をし、その後、気液界面(ALI)培養へ移行することで、表皮分化と角層形成を促す。

 なお、シンプルな作製手順ながら、高研の研究ではセルカルチャーインサートの種類によって角層形成の程度が大きく変わることが分かっている。アテロコラーゲン100%のメンブレンを持つ「FibColl®高透過性アテロコラーゲンインサート」を用いることで、一般的なインサートでは14日間要する気液界面(ALI)培養を半分の7日間に短縮することが可能で、角層形成の成熟も促進させることが認められている。

 さらに、播種密度や培地交換時の注意点、培養後の評価方法など、成功に導くコツを整理した詳細プロトコルまで用意されているため、初めて表皮モデルを作製する研究者でもプロトコルに沿って取り組みやすい環境が整っている。

4-2. 自作ヒト表皮モデルの用途

 自作した表皮モデルは、表皮分化、角層形成、皮膚バリア機能、表皮に対する刺激応答を見る研究に向いている。

 細胞や培養の条件を工夫することで、市販モデルでは調整しにくい、刺激に敏感な肌状態やバリア機能が未熟な状態、老化した皮膚を意識したモデル設計にも応用できる。また、皮膚全層モデルと同様に皮膚疾患モデルの作製にも応用が可能である。

 有用性評価や安全性評価の予備検討、基礎研究では、自作表皮モデルの方が条件を変えやすく、自身の研究に合わせた実験系を組みやすい利点がある。

 ただし、OECDテストガイドラインやISO規格に基づく安全性評価では、指定されたモデルやプロトコルの使用が必要である。

 まずはシンプルな表皮モデルから始め、必要に応じて真皮モデルや皮膚全層モデルへ展開していく。そうした進め方は、3D皮膚モデルの導入として非常に現実的である。

まとめ

 再構築ヒト皮膚モデル(3D皮膚モデル)は、化粧品や医薬品の開発、医療機器分野の安全性評価などでも使われており、研究用途は広がっている。真皮モデル、皮膚全層モデル、表皮モデルを目的に応じて選ぶことが、研究の質とスピードにつながる。

 市販モデルと自作モデルのどちらを選ぶかは、標準化されたモデルで比較評価を優先するのか、研究目的に合わせて細胞条件や培養条件、基材を調整できる柔軟性を重視するのかを基準に判断するとよい。

 市販モデルは一定の品質でそろえられたモデルをすぐに使える点が利点である一方、自作モデルでは、研究目的に応じて構成や評価系を調整しやすく、実験系そのものを設計できる点に大きな意義がある。

 3D皮膚モデルを自作する上では、作製方法だけでなく、再現性を担保するために質の評価も重要である。これから3D皮膚モデルの自作を始めるなら、まずは扱いやすい表皮モデルから試し、必要に応じて全層モデルへ発展させる形で段階的に導入する方法が進めやすい。

 その際、高研にて用意されているようなアテロコラーゲン製の基材とそのプロトコルを活用することで、初めての自作でも成功につながりやすくなるはずである。

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