幹細胞の分化誘導にも影響する分子クラウディング | 株式会社高研

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2018年07月09日

幹細胞の分化誘導にも影響する分子クラウディング

分子クラウディング(Macromolecular Crowding: MMC)とは

分子クラウディングという言葉を初めて耳にしたという方も多いのではないでしょうか。それもそのはず、PubMed での検索によると2017年の1年間で発表された論文数は63報と、まだまだ一般的な研究対象ではないようです。しかし、1981年にMintonらが発表した、分子クラウディングが酵素の構造と機能に与える影響に関する論文を皮切りに、着実に知見が深まってきています。

分子クラウディングとは、多くの体積が占められている溶液中で起こる特定の反応やプロセスに対する、分子間の立体的な反発による非特異的な影響を意味します。ただ、言葉では分かり難いかと思いますので、概要を以下の図に示します。高分子が高濃度に存在する(混み合った)溶液中において、サイズの小さい分子は移動を阻害されることなくアクセス可能な領域が多いのですが、サイズの大きい分子の場合にはアクセス可能な領域が制限されます。また、分子クラウディングは分子の拡散速度を顕著に低下させるため、分子同士の立体的な相互作用が拡散律速反応(反応に必要な物質の拡散速度に反応速度が依存すること)にも大きく影響します1)。さらに、タンパク質のフォールディングにも影響があると言われています。

高濃度の高分子(灰色丸)が存在する溶液中での、サイズの異なる二つの分子(黒丸)がアクセス可能な溶媒領域(赤色)の模式図。
高濃度の高分子(灰色丸)が存在する溶液中での、サイズの異なる二つの分子(黒丸)がアクセス可能な溶媒領域(赤色)の模式図。

生命科学における分子クラウディング

E. coliの細胞内模式図。DNAとタンパク質からなる核様体(黄色とオレンジ)、細胞質(青と紫)、細胞膜(緑)。
E. coliの細胞内模式図3)。DNAとタンパク質からなる核様体(黄色とオレンジ)、細胞質(青と紫)、細胞膜(緑)。

 

それでは、生命科学における分子クラウディングとは、どのような状況なのでしょうか。一般的なin vitro実験においては1g/L以下の濃度で高分子が存在するのに対して、in vivoでは数百g/Lの濃度で高分子が存在すると言われています。また、細胞の体積に対する細胞内の高分子の割合は10~40%と考えられており、かなり込み合った環境であると考えられます。

そこで、上述の様な混み合った環境をin vitro実験で再現するために、不活性な高分子のクラウディング剤を用いて、分子クラウディングの研究が進められています。代表的なクラウディング剤としては、アルブミンやデキストラン、フィコール、ポリエチレングリコール、ポリスチレンスルホン酸などが挙げられます2)

分子クラウディングが生体に与える影響

2016年に発表されたBanerjeeらやShiraiらの論文では、パーキンソン病に特徴的なレビー小体の主要成分であるα-synuclein線維の形成を分子クラウディングが促進することが示されており、パーキンソン病の進行を理解するための一助になっています。その他にも、分子クラウディングの影響はコラーゲン沈着の増加やアクチンの重合促進、DNAスーパーコイル構造の安定化など多岐にわたります。

また、以下の表のとおり、近年研究が盛んになっている再生医療関連の分野でも分子クラウディングの応用がされており、幹細胞の培養や分化誘導にも使用されています。尚、Leeらの論文では、フィコールの代わりにコラーゲンゲルを用いることでも、分子クラウディングによる褐色脂肪細胞の分化誘導促進と同様の効果が認められています。

クラウディング剤 概要 文献情報
デキストラン MMCを利用して網膜色素上皮細胞を培養し、得られた細胞外マトリックスを用いてiPS細胞を網膜色素上皮細胞に分化誘導。 McLenachan S, et al. Biochem Biophys Rep. 2017 Mar 28;10:178-185.
カラギーナン、
フィコール
MMCを利用して培養した骨髄由来間葉系幹細胞を脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞に分化誘導。 Cigognini D, et al. Sci Rep. 2016 Aug 1;6:30746.
フィコール MMCを利用して骨髄由来間葉系幹細胞を白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞に分化誘導。(コラーゲンゲルも使用。) Lee MH, et al. Sci Rep. 2016 Feb 17;6:21173.
フィコール MMCを利用して末梢血単核細胞を培養し、MSC様周皮細胞を取得。 Blocki A, et al. Mol Ther. 2015 Mar;23(3):510-22.
フィコール MMCを利用して骨髄由来間葉系幹細胞を脂肪細胞に分化誘導。 Ang XM, et al. Tissue Eng Part A. 2014 Mar;20(5-6):966-81.
デキストラン、
フィコール
MMCを利用して線維芽細胞を培養し、得られた細胞外マトリックスを用いたES細胞の培養。 Peng Y, et al. J Tissue Eng Regen Med. 2012 Nov;6(10):e74-86.
フィコール MMCを利用して骨髄由来間葉系幹細胞を培養。 Zeiger AS, et al. PLoS One. 2012;7(5):e37904.
フィコール MMCを利用して骨髄由来間葉系幹細胞を脂肪細胞、骨細胞に分化誘導。 Chen C, et al. Adv Drug Deliv Rev. 2011 Apr 30;63(4-5):277-90.

 

参考文献
1) Life in a crowded world.
Rivas G, Ferrone F, Herzfeld J.
EMBO Rep. 2004 Jan;5(1):23-7. PMID: 14710181.

2) Making microenvironments: A look into incorporating macromolecular crowding into in vitro experiments, to generate biomimetic microenvironments which are capable of directing cell function for tissue engineering applications.
Benny P and Raghunath M.
J Tissue Eng. 2017 Oct 6;8:2041731417730467. PMID: 29051808.

3) Easy DNA modeling and more with GraphiteLifeExplorer.
Hornus S, Lévy B, Larivière D, Fourmentin E.
PLoS One. 2013;8(1):e53609. PMID: 23308263

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