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2017年12月18日
三次元培養(3D培養)がin vitro実験を生体内に近づける
多様な分野の研究者が注目を集める三次元培養(3D培養)
この数年、三次元培養(3D培養)に興味を寄せる研究者が急速に増えています。当社の学会展示においても、以前は3D培養と言うと再生医療研究で使うものとのイメージを持たれることも多かったのですが、近年はがん研究者の利用が増えてきました。背景として、従来の平面培養下では、抗腫瘍効果を示す薬剤をいざ動物モデルに投与すると、期待していた効果が得られないといったギャップや生体内でがん細胞が存在する微小環境を反映していないとの課題があったようです。さらに、再生医療やがん以外の多様な研究者が集う分子生物学会においても、より生体内に近いin vitro実験のために3D培養を始めたいという声が増えており、今後の同技術のさらなる普及が見込まれています。
コラーゲンゲルによる3D培養
コラーゲンはヒトの全タンパク質の約30%を占めると言われ、その生体親和性の高さから細胞培養器材のコーティングに広く使用されています。実は、一般的にコーティングに使用されるコラーゲン酸性溶液と同じものを中和し、37℃に温めると肉眼では見えないコラーゲンの線維化(コラーゲン分子が配向性を持って会合する現象)が進み、コラーゲンゲルを作製することができます。加温によるゲル形成という利点を活かして、液体状のコラーゲン溶液を細胞や培地と混合してから各種培養器材に添加することで、培養器材の形状に合わせたコラーゲンゲル内での3D培養が可能です。
コラーゲンゲル内で3D培養した細胞への酸素供給
他の3D培養の方法としてスフェロイド培養を行う方法もありますが、スフェロイド径の増大に伴い、酸素や物質交換の不足による中央部での細胞死が課題と言われています。一方、コラーゲンゲルでは生体内に近い環境で3D培養ができると考えられます。Colomらの実験によると、0.3%濃度のコラーゲンゲル内で肺上皮細胞を46時間培養した場合、ゲル内の酸素分圧は約20 mmHgであり、肝臓や脳などのほとんどの組織における酸素分圧20~50 mmHgと近似した値になります1)。おもしろいことに、0.1%濃度のコラーゲンゲルを用いた同様の実験では、培養46時間後の酸素分圧は約70 mmHgを示し、動脈や肺胞の酸素分圧75~100 mmHgに近しくなります。
コラーゲンゲル上に添加した生理活性物質のゲル内への浸透
3D培養と平面培養による細胞機能の比較評価はもちろんですが、その後は生理活性物質を用いた実験を考えられる方も多いと思います。平面培養で培地中に生理活性物質を添加すると、比較的早い時間で拡散していきそうだとなんとなく想像できますが、コラーゲンゲルの場合はコラーゲン濃度や厚さが拡散に影響します。Galgoczyらの発表によると、細胞を含む厚さ2mmの0.3%濃度コラーゲンゲル内で4kDa、40kDa、70kDaの物質が平衡濃度の半分に達するまでの時間は、それぞれ約16時間、約34時間、約46時間と計算されています2)。尚、同論文では目的の生理活性物質がコラーゲンなどの細胞外マトリクスとの結合ドメインを保有するかどうかを考慮することや、生理活性物質の拡散を早めるためにはセルカルチャーインサートを用いてコラーゲンゲルの上下から生理活性物質を添加することが提案されています。
参考文献:
1) Oxygen diffusion and consumption in extracellular matrix gels: Implications for designing three-dimensional cultures.
Colom A, Galgoczy R, Almendros I, Xaubet A, Farré R, Alcaraz J.J Biomed Mater Res A. 2014 Aug;102(8):2776-84. PMID: 24027235
2) A spectrophotometer-based diffusivity assay reveals that diffusion hindrance of small molecules in extracellular matrix gels used in 3D cultures is dominated by viscous effects.
Galgoczy R, Pastor I, Colom A, Giménez A, Mas F, Alcaraz J.
Colloids Surf B Biointerfaces. 2014 Aug 1;120:200-7. PMID: 24916283